岡部倫子氏の研究に見る「サービス従業員の感情戦略の重要性」

航空会社にとって安全性と保安は重要ですが、顧客満足度を向上させることは、企業間競争という観点から大変重要です。機内サービスを提供する客室乗務員は、さまざまな乗客の要望に対応するために、怒りや困惑の感情をコントロールして、最適な顧客対応ができるように訓練を受けています。このように、サービスを提供する従業員が行う労働を「感情労働」と言います。感情労働は、肉体労働や頭脳労働とは異なり、サービスを提供する従業員が顧客に対応する際に、会社が規定するガイドラインに従って、個人の感情をコントロールして適切な対応をする労働形態です。従来は、客室乗務員の他にも、看護師、販売員、オペレーターなどが、感情労働を行っていることが知られていました。しかし近年は、サービス経済の急速な成長に伴い、サービスを提供する企業と従業員の人口が増加しています。そのため、どのような職種であっても、人とのコミュニケ―ションが必要な場合には、感情労働は重要となると考えられています。

岡部倫子氏は経営学の研究者で、フランスで航空MBAを、日本で博士を取得した経験を活かし、サービス企業と従業員の感情労働の研究を行っています。氏は、2017年に「感情労働と役割コンフリクト・曖昧性との相互効果」という論文を発表しました。その論文の中で、氏は航空会社の客室乗務員を対象としたフィールド・ワークとアンケート調査をもとに分析を行いました。その結果、役割コンフリクトと役割の曖昧性は、組織に対する信頼度を下げる要素であり、顧客サービス従業員の感情を枯渇させる要素であるとしています。役割コンフリクトとは、自分自身と自分の役割との葛藤であり、競争が激しく複雑な組織において、上司の命令が統一されない場合に起こりやすく、役割の曖昧性とは自分の役割に期待される内容が判然としない状態を指します。いずれも、従業員の組織に対する信頼度を低下させ、従業員が感情枯渇に陥るリスクを高めます。

岡部氏は、サービスを提供する従業員が感情をコントロールするには、二つの感情戦略があるとしています。「表層演技」と「深層演技」です。従業員が感情戦略をとる目的は、企業が従業員に求めている感情を、従業員が自然に表現できない場合に、従業員は自分の役割を演技するような方法で感情を表現することです。「表層演技」とは、従業員が自分の感情を変えずに、一時的に表情と態度を変えて、顧客に対応する感情戦略です。表層演技は、短時間に多くの顧客へ対応する場合に効果的ですが、ひんぱんに行う、あるいは長期的に行うと、従業員は自分の本当の感情が分からなくなる「感情の枯渇」におちいるリスクがあります。他方で「深層演技」とは、努力によって自分の感情をコントロールし、企業が求める感情が自分の気持ちと一致するまで、自分の気持ちを修正して顧客に対応する感情戦略です。深層演技は、従業員が自分の気持ちの整理がつくまでの時間を要するため、顧客への対応に時間的余裕がある場合に効果的です。

現代ではどのような職種であっても、人とのコミュニケ―ションが必要な場合には、多くの職業に感情労働が求められています。役割コンフリクトや役割の曖昧性が存在しない職業は稀です。氏の考察は、サービス従業員が役割コンフリクトや役割の曖昧性を克服できずに、感情の枯渇 (燃え尽き症候群)に陥り、さらには退職に至ることを避けて、企業が成長するために一考に値する研究です。

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